インド文化講座

 インドのことわざ 言い伝え

日本語がご堪能なギータ・ナイアルさんにインドのことわざや
日常生活での言い伝えについてうかがいました。
ギータ先生は、印日協会で日本語講師を勤めるかたわら、
日系企業の通訳としてご活躍です。
英語、ヒンディー語、カルナータカ語など5つ以上の言語を習得されてます。
美術の造詣も深くムンバイのJJアートスクールで学ばれました。
 皆さんこんにちは、今回のテーマをいただいた時に、最初に考えたのは、子供の時に聞いた物語です。その事からお話します。
 夜、泥棒が、街一番のお金持ちの家に忍び込み、荷物を持って逃げ出そうとした時、足の指の爪を剥がして家の中に落としてしまいました。泥棒は大急ぎで戻って爪を拾おうとしたが、爪はなかなか見つからず、仕方なく電気をつけたら見つかってしまいました。この泥棒が、どうして爪などにこだわったかといえば、インドでは、古くから「爪を落としたところは滅びる」といわれていました。泥棒にしてみれば、大事な仕事場(お金持ちの家)がなくなっては困るので、爪を必死になって探していたという笑い話です。
インドの社会背景には、『小さなものでも大きなものへのつながりがある。』という考え方があります。カルマ(因縁)と言いますが、常に、自分の言った些細な言葉や考え方も、大きなものにつながっている、だから思慮の足りない言動を慎む様にという戒めが、この物語にはあります。もちろん先のとがった爪は危ないので切った後の始末の戒めでもあるわけですが。
Q.爪の話が出ましたが、日本では、夜のタブーがあります。例えば、夜に爪を切ってはいけない。夜に、塩を買ってはいけない。夜に、新しいものを使い始めてはいけない。それと反対に、祝事は、朝の方が良いとされています。インドには、朝・夜の時間によるタブーがありますか。
インドでも時間に関するいろいろな観念があります。日没の時間は、1日の中で、とても大切な瞬間です。サンスクリットの考えから来ていますが、日没と日の出の時間は精神的にも大変敏感になる時間で、この時間には、お線香をたき空気を清めてお祈りをします。日が暮れて家に灯をともす時、私も今日1日の無事を感謝しながら敬虔な気持ちでお祈りをします。この時間をサンジャ(サンスクリット)と言い、女性の名前にもよく使われています。日の出は、ウシャ(サンスクリット)といい、これもよく女性の名前として、使われています。ウシャには、ヒンディーの聖人にとっても大事な時間で、早朝4時頃からお祈りをします。太陽に水を奉げて祈る時間です。インドでも夜、爪や髪の毛を切ってはいけないといわれています。夜、暗いところで刃物を使うと事故になることへの戒めでもあると思いますが…。また、夜は、塩、ヨーグルトは、貸してはいけないとされています。鍋などの調理器具の貸し借りもいけなくて、結婚式や、人寄せで、大なべを借りに来た時は、担保に小さな鍋を預かるというしきたりもあります。また、夜の戒めとして、新しいものをおろして使わない、お金を貸さない、新しいものを買わないという、戒めもあります。
 ボンベイのような都会では、このような時間の戒めを全部守っていくには、忙しすぎるし、合理的ではありません。インドでもゆったりとした時間があった時の戒めが多いのですが、私自身、若い頃はあまり気にしなかったことも、歳をとるにしたがって、何か、生活上に意味のある決まりなのではないかと思うようになりました。夜遅くまで外出していて、日没をかなり過ぎてから電気をつけるような時もスイッチを入れながら、心の中で、お祈りしています。夕方の時間は、とても大切な時間と、意識しています。また、女性は、家の運を守る役割があるとも言われていて、灯をともし、スイッチを入れるのは、守り神の女性の仕事でもあります。

Q.日本では、「茶柱が立つ」(お茶の中に茶の芯が浮く事)と縁起が良いとか、「雨降って地かたまる」という、縁起の良い前触れについても良く言われます。良い事のまえぶれについてインドにも言い伝えがありますか。
 商店などでは、朝1番のお客さんを大切にします。何も買わずに帰られてしまうと、1日商売がうまくいかないという考えから、たとえどんなにお客に値切られても買ってもらいたがります。以前は、私の母が朝早くクレープ(布地)を買いに行き、その店では買わなかったけど、母が再び戻ってきたら店主が店の前で母を待っていたそうです。母が店を出てから1時間あまりの間に大変な客入りで、大繁盛。母は、ただで、クレープを貰ったそうです。母が、商売繁盛をもたらしたと思ったそうです。一番最初のお客は大事にされます。
また、仕事場に入る時、そこの床に手をついてその手を自分の額に持っていき拝んだりします。今日1日仕事が上手くいきますようにという気持ちですね。舞台に上がる時もそうですね。
 インドでは、朝一番に目に、入ったもので、その日の運を占ったりします。それは、いつも嫌われていたり疎まれているもので、生肉、お酒、痛いもの(刺とか、出掛けにどこかをぶつけて、痛い思いをする)、ヒジュラ(インドのオカマの人たち)などです。こういうものに、朝一番に出会うと、今日は、これ以上嫌なことはない、転じて、良い事があるとなるわけです。
 ヒンディー教の新年(4月14,15日ごろ)には、朝、母に4時ごろに起こされます。この時目は目隠しされていて、祭壇の前に行くまで目を閉じていなければなりません。祭壇には、お盆に花、カジョル、鏡、ランプ、米、ビンディーの赤い粉、金貨など美しいものが入っています。新年に先ず目に入るものが美しいものであり、これを見ると1年間良い事があると思われています。またこの日は、子供たちは少しだけお金を貰います。お年玉と同じです。新年のお花には、ハルディーという金色の花が使われます。藤のような花で黄色です。
(この花は、日本名で金くさり、英名ゴールデン・シャワーというそうです。イギリスでもよく観られるそうです。4月頃、マニ・バワンの通りが見事だそうで、この通りは、ハルディー・レーンというそうです。)
カジョルとは、ギー(インドのバター)を煮詰めてその煤を銅版に受けて作った黒い粉です。子供が厄除けで目の下につけています。
Q.カジョル(子供が目の下につける黒い墨)について教えてください。
インドでは、あまりむやみに子供を誉めてはいけないと言われています。なぜなら、可愛い、綺麗といわれて、人の妬みを買うと子供に災いが起こるといわれているからです。だからよく子供が器量を誉められるとお母さんは急いで子供を家に連れて帰り、塩とチリをつかんで、子供の前で、ぐるぐる3、5、7回まわして、口の中で、小さな声で呪文を唱えてチリと塩を火に投げ捨てて清めたりします。そのために、目の下にカジョル(黒墨)をつけて人の妬みをかわない様に厄除けにします。子供の食べっぷりを誉めてもいけません。赤ちゃんなどが、よく食べますねといわれると病気になるともいわれています。しかし、親ならばわがこを誉められて、悪い気はしないのでこの言い伝えについてはあまり神経質になることはありませんが。
Q.方角についても日本では、南や東は、良い方角ですが、北や西は、あまり良くありません。インドはどうですか。
インドでは死んだ人は、南向きに寝かせます。普通は、東を頭にして寝るのが良いとされていますが、北についてはあまりタブーはありません。西は、好ましくない方位です。
Q.左右の使い分けについても教えてください。
基本的には、上半身は、右手で、下半身は左手で。物を手渡す時は、必ず右手で。厳格な人は、顔は右手で、腰から下、足は左手で洗いますが、これはとても不便なので、気分的にそう守ろうと考えている程度で…しっかり分けては暮らせませんから。
Q.アジアの女性には、タブーはたくさんあると思うのですが、女性のタブーで今でも厳しく守られている事があれば教えてください。
一番強く言われているのは、妊娠中に月食を見てはいけない、月食中の外出です。これは、子供に障るといわれていて、どんなに、西洋的教育を受けて、進歩的なインドの女性も頑なに守っています。
Q.日本では、3や、8が昔から良い数字といわれています。また、贈り物をする時などは、4(し)は、死に通じるので、嫌われます。奇数は、これ以上半分にできないので、壊れないという意味から、祝事に使われます。数字についても教えてください。
奇数はよい数とされています。結婚のお祝い金は、10,001ルピーというように奇数を包みます。また、0(ゼロ)は、インドで発見された数字ですけど、何もない、空虚であるということから良い数字とされています。かたちも輪なので、完全無欠で良い数です。おでこにつけるビンディーは○。実はここから来ています。
また、ビンディーは、第三の目、心の目でもあるわけですが。
4についてのインドでの考え方は、社会の規範は、4で表されます。方角、ヴェータ(ヒンドゥー教の聖典)は、4つあります。カーストも4つですね。
 話が横にそれますが、ヒンディー教のヴェータ(聖典)というのは、4つあって、これには、人間はなぜ生きるのか、生きる目的について書かれています。1はダルマ(人間らしさ)ダルマのために働く、人が人のために働く、人の役に立つということ。2つ目は、アッタ(物、お金)の為に働くということ。3つ目は、カーマ(愛)ですね。もちろん、子供や隣人への愛も含まれますよ。4つ目はモクシャ(悟り、自分の魂の開放)です。
5は5つの金属を合わせたものは、体に良いとされていて、5種類の金属をバングルなどにして身につけていますね。
7は、サンスクリットでも大事な数です。7つの世界、7つの大陸、7つの海、7つの惑星、インドの音階も7つですね(サ・レ・ガ・マ・パ・ダ・ニ・ラ)=(ド・レ・ミ…)。結婚式で、火の周りを回るのも7回ですし、大事な人が来た時にお清めで、お盆に載ったお供え(花、ランプ、カジョルなど8品目)を、ぐるぐる回すのも7回です。
8は、このお供えが8品目ですね。
Q.曜日の観念はどうですか。
惑星の影響から色々あります。各曜日に神様がいます。月曜日は、シヴァの日です。チョウパティビーチ(日本人幼稚園)ちかくの、バブルナス寺院は、若い女性の参りがこの日は多いです。いいお婿さんを…と願う日です。火曜日と金曜日は、病人のお見舞いをしてはいけません。病人の病気が重くなるといわれています。そして、火・金曜日は、女性の外出は控える日と昔は言われました。女性は、家を守る運を握っているとされていて、この日は、家を守る大事な日だそうです。また、この日、オイルマッサージをするといいとされていました。昔忙しかった女性が、大義名分と作って休む口実として、こんな習慣ができたのだと思います。今は、あまり守られていませんが。男性は、水曜日と土曜日がマッサージをする日ですね。マッサージはケララ(ギータさんの出身地)では、セサミ・オイルでして、ベーサン(チャナ豆の粉)で、拭きと取るとホントにスベスベになります。アーユルベータを研究したいと思っているので、今度皆さん一緒にケララへ行きましょうね。(笑い)土曜日には、新しい服をおろさない、着ないといわれています。
時間にも細かく規則がありますが、今日は時間があまりないようなので、今回は省きます。
Q.日本では、くしゃみをすると「誰かが私の噂をしている」と言ったりもします。そんな言い伝えがありますか。
あります。左のまぶたがピクリと痙攣したら、誰かが悪い噂をしている。右ならば良い噂。(右は浄、左は不浄)黒猫が行くてを左から右に横切ったら、その道は迂回するか、ひき返す。右から左に横切ったならば、行くてにいい事が待ち構えている。私の父は、大変進歩的で、合理的な考え方をする人でしたが、この迷信だけは、強く信じていて、黒猫に出会った時ひき返した事がありました。くしゃみや、しゃっくりは、やはり噂をされている時にでます。そんな時は、インドでは「ハリー・クリシュナ」(守護神クリシュナ様お守りください)と呪文を唱えます。何か話をしていて、相手が疑わしそうにした時、ヤモリがなくと「ほら、ヤモリもそうだ(チィチィ=アチャ)といったでしょう」と言ったりします。手のひらが痒い時は、お金が入ってくる、足の裏が痒い時は、旅に出たい時といういい方もします。生まれつき舌が黒い人がインド人に時々いるのですが、私も最近、そういう人に初めて合いました。その人に言われた悪口は、ホントになるといわれているので、チョット怖いですね。ヤモリについては、ヤモリがなんと言っているか占う人もいますよ、ヤモリ占い、当たるそうです。(笑い)        
Q日本では、行儀が悪いとされることに対して、戒めの言い伝えがあります。例えば、食事の後すぐ横になって寝ると牛になる。テーブルに肘をついて食事をするのは良くない。等です。インドでは、行儀に関するタブーはどんなものがありますか。
作法は色々あるけど時間がないので簡単に。濡れた手で拍手してはいけないですね。お葬式の時そうするから。これはタブー。座っている時に足を揺らすのはいけません。蛇が来るよといわれています。足を組んで座るのも目上の人には、すごく失礼ですね。
Qインド人の家を訪問した時、絶対してはいけない事がありますか。それはどんな事ですか。
靴は脱いでくださいね。それくらいかな…(笑い)
Q.汚いものを観ると良い事があるといわれましたが、インドのオカマさんは、どんな意味がますか。生まれついての人たちなのでしょうか。
私もよく解りませんが、今は去勢してそうなった人たちだという事です。ボンベイの場合は売春とかともかかわっている様だし、彼ら?彼女ら?は、特別の神様を信仰しているそうですし。昔、王様が、お妃たちの護衛官として使っていたという説もありますが、私にもよく解りません。
Q.身近なインド人が、「クリシュナを信仰している」と言っていましたが、これは、ヒンディー教の一派という考え方でいいのでしょうか。
外国人は、解りにくいと思いますが、ヒンディー教の神様との関係は、親のように愛する、子供のように愛する、性愛的に愛するといった関係の築き方でも良いとされています。クリシュナは、子供の時とってもいたずらっ子で、可愛い神様です。神様を子供のように愛する。そんな神様のキャラクターを愛するかたちで信じてもいいとしています。とても人気のある神様です。ヒンディー教の神様を表現する時、「神は〜である。神は〜である。」という表現ではなくて、「神は〜でない。神は〜でない。」という表現をするくらいです。いろいろな面を持っているからです。尊敬という観念だけで、敬っているのではありませんね。そのあたりが、外国の人には、わかりにくいでしょう?
Q.ヒンディー語を習った時に、神様をapではなく、tuというのは、そのせいでしょうか。
(ヒンディー語には、あなた、youに当たる言葉にap(尊敬語のあなた)と、tu、tum(親しい関係に使うあなた)がある。神様に呼びかける時は、尊敬語のapではなくて、親しい関係の時に使うtuが使われる。)
そうですね。神様とは、誰よりも近い関係にありたいという考え方から、tuが、つかわれています。神様と自分は、どんなかたちをとって繋がっていてもいいからです。
Q食生活の中での言い伝えは、ありますか。
インドでは、「医者に行く前に台所へいけ」という、ことわざがあるくらいたくさんあります。今日は、私のスパイスボックスを持ってきましたので、ご覧ください。もう、時間がなくて、残念ですね。ホントは、私ももっと日本のことわざとかが、聞きたかったです。
ギータさんは、翌日、渡米を控えているにもかかわらず、たくさんの資料を集めてくださって講演してくださいました。まだまだ、伺いたい事はたくさんあったのですが、時間切れでとても残念でした。長年大切に使いこんだスパイスボックスを拝見した時は、皆さんとっても興味を示されていました。次回、ギータさんのご都合がつけば、また、スパイスや、家庭療法についてもお聞きしたいと思っています。(2000年8月8日)


<BACK