インド文化講座

 マンガラ・ストラーにみるインドの結婚観 

インドのエンゲージリングにあたるマンガラ・ストラーと呼ばれるネックレス。
地方や宗教によって少しづつ違いその意味とデザインを探りました。
講師:チャンドリカ・ナイアルさん

 インドの既婚の女性が、身につけるマンガル・ストラーの意味から、ヒンドゥ文化、インドの結婚観を探ってみました。
 
マンガラ・ストラーはインド全域で使われている物ではなく、とくに南インドから、マディヤ・プラデーシュ州、マハラシュトラ州、グジャラート州の中央インドあたりまでとされていて、北インドや、ラジャスタン州では使われていません。ラジャスタン州、パンジャブ州、カルカッタのあるベンガル地方では、その代わりにブレスレット(バングル)が既婚女性の印とされています。とくにカルカッタでは、赤と象牙のブレスレット、パンジャブでは、金メッキされた金のバングルが使われています。グジャラート州では、鼻ビンディーも既婚女性の印とされています。(今では、ファンションとして使われてもいますが。)

 結婚式の儀式で新郎が、新婦の髪の毛の分け目(額の髪の毛の生え際)に、クムクム(赤い粉)をつけますが、これは夫への貞節を誓い、また既婚の印も意味します。夫の長寿を願って髪の毛の分け目に長くつけるほど良いとされています。
 額につけるビンディーとは違います。これは、当初、第3の目(心の目)と言う意味あいでしたが、今ではファションとされています。

 また、南インドは、母系社会で、家長は最年長の女性とされていて、朝のプジャー(祈祷)や、家人の遠出、大事な仕事の前、長い不在後の帰宅の際に銀盆に聖水(バナラシの聖なる水)ココナッツ、マリーゴールド、インドバジル(トルシィー)、キャンドル(オイルに火をともす)、Kum−Kum(赤い色粉)などを乗せ、そのお盆を、回し、クムクムを、額につけます。つけてもらった人は、相手の足のドロをはらい、その手を自分の胸、両目につけ信頼と感謝を表します。(チャンドリカ・ナイアルさんの講演から)
典型的なマンガラ・ストラー
          
インド文化紹介から

ヒンドゥー社会において既婚女性(未亡人を除く)は女神の像を所持する。
女神像は万物の母なる「デヴィ」として崇められる。マンガル・スートラはそれを象徴化したものといってよい。既婚女性はそれを常に人目に触れるよう身につける。「マンガル」は縁起の良い、「スートラ」は糸といった意味を持つ。

ヒンドゥーのシャスートラ達の間では、夫以外の男性が既婚女性を色欲をもって邪視するとその男はたちどころに灰になってしまうと言い伝えられている。

それ故にマンガル・スートラは常に人々の目にとまるように身につけられ、結婚した者にとって聖なるお守りとなるのである。

少しばかり時代が遡るが、女性達はまだほんの若いときに嫁ぐのが慣わしだった。彼女達は男連中に頼らざるをえなかったし、大家族のなかでの生活を余儀なくされていた。そうした状況下で夫以外の男達から言い寄られたり色目を使われることも度々であったろう。
恐らくマンガル・スートラの慣習は女性を守るべくして生まれたものであり、その法を破ったら、何らかの報復がかならずあると男性達に注意を促すためにできあがったと思われる。

マンガル・スートラはインド各地で形もそれぞれ異なるものの、全て同じ目的で身に着けられている。つまり夫・妻・聖なる結婚に関わった全ての人々を思い起こさせるのである。ヴェーダの結婚の儀式においては新郎が新婦の首にかけるまえに、マンガル・スートラそのものが聖なる祈りによって祝福を授けられる。

タミル地方の女性のマンガ・スートラにはたいてい宗教的なシンボルがみられる。例を挙げると、太陽・月・トゥルシ(結婚の立会人とされる植物)といったそれら自身と同じように結婚が普遍的なものとなるよう願いがこもっているものもある。他のインドの地域では世間からの邪視を避けるために黒いビーズをマンガル・スートラに使っているところもある。

表面的に多くの人々がマンガ・スートラはあたかも結婚によって女性が男性に縛り付けられ、その男性の所有物になった印であるように考えている。
しかし実際には、より深い意味がこの聖なる紐には込められているのである。
マンガル・スートラを身につけている女性は夫に幸福と富と健康をもたらすと信じられているのである。例えば民話の中でサヴィトリという女性のマンガル・スートラは彼女の夫であるサテイアヴァンを死から救ったといわれている。

順調な夫婦生活を送るには、万一貞節さが失われた場合に妻が夫の報復を恐れる以上に夫はマンガル・スートラを肌身放さず身につけている妻のそれに心しておく必要がある。
南インドのある地域では夫達がマンガル・スートラの女神とされるデヴィ・アンバルの心をなだめるために毎年儀式を行うということである。



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