私たちの住むムンバイ

タミル人のひな祭り「ナバ・ラトリ」に招かれて


2002年のドゥルガー・プジャーは10月15日です。
インドの地方によって、お祭りの名前も祝い方も様々です。
タミルのブラーミンは、この時期、日本のひな祭りに
とても良く似たお祭りをすると聞いて、ムンバイに住むタミル人一家
Mrs.Usha Vankatramanのご招待で、タミル人のひな祭りにお邪魔しました。

 お家に伺って、ご挨拶もそこそこに、私は歓声をあげてしまいました。
日本と全く同じように、そこには5段飾りのひな壇があったからです。これらのお人形は「Kolu」と呼ばれていて、毎年、この時期、娘のいる家庭では、飾り付けが行なわれているそうです。
               

 この時期、インドではドゥルガーという女神信仰のお祭りが各地で行なわれます。特に東インドのベンガル地方のドゥルガー・プジャーが盛んで有名です。私たちが住む家の近くのマハラクシュミ寺院は、ドゥルガーが祭られたお寺です。タミル人がこの時期、こぞってお参りに行き、去年、私も着飾った女性の列に混じって参拝しました。女神であるために、女性たちの熱心な参拝が行なわれます。力と子孫繁栄をつかさどる女神です。
 ムンバイのあるマハラシュートラ州では、ナヴァラトリ(ナヴァ=9、ラトリ=夜)といって、スティックダンスが行なわれたり、地域のコミュニティーごとにドゥルガーの偶像が飾られていたりします。15日までの9日間は特に、グジャラティーの人々は毎晩、着飾ってダンディヤという盆踊りの夜が繰り広げられて、ムンバイは夜遅くまで賑っています。

タミルでは、このドゥルガー信仰が形を変え、同じ女神ですが、名前もシャクティーや、デビィとよばれ、女性の祭りになり祝い方が変わります。おもに、ブラーミンの家庭の風習と聞きましたが、奇数壇のひな壇に、自分の信仰するヴィシュヌ神を最も上段に飾り、たくさんのヒンズー教の神様の偶像を飾ります。このひな祭りは、女性たちにとって、サロンや交流会、若い女性が立ち居振舞いや、おもてなしの仕方を学ぶ機会でもあります。ひな壇の神様の偶像は、各家で競って集められ、各家の主婦が趣向を凝らしてディスプレイをします。若い未婚の娘がいれば、その娘が気のきいた飾り付けをするようにと母親は気を配ります。言うなれば、上流階級のお嬢さまのデビュタントの意味も兼ね備えていて、娘たちの、祝いの客人へのおもてなしや、立ち居振舞いが、やがては目上の親類縁者の叔母や祖母の目にとまり、縁談へのアピールや、花嫁候補の品定めにもなっているサロンでもあります。迎えてくださった、Ushaさんから、ジャスミンの花の髪飾りが1人1人の女性の訪問客へ配られました。まるでウエルカム・フラワー、当たり一面に花の香りがこぼれました。早速、みんな髪に花を刺します。

   
Usahさんから花飾りをもらい、髪に刺したところ
 ひな壇には、一番上に、この家の信仰の一番厚いヴィシュヌ神の御神体の10変化の姿の人形たちが並んでいます。2段目からは自分のお気に入りの神様の偶像を飾りますが、特に大事とされているのが、木で作られたマラパチ(マラ=木、パチ=人形)と呼ばれる素朴な男女ペアの人形です。私もココナッツの木で出来たお人形をいただいた事がありますが、女の子の家に代々伝わる人形で、マハラジャ(王様)とマハラニ(姫)カップルの人形。日本のひな祭りのように、夫婦の理想のあり方や、娘の幸せな結婚を願う気持ちから飾られているそうです。Ushaさんの家では、3段目にアシュタ・ラクシュミーが8体ありました。日本でも同じみの弁天様ですが、金運、食、子孫繁栄、知恵、勇気などの意味を持つ、これまた8変化スタイルです。
他にも、シバとパールバティー、その息子のガネーシャ、クリシュナについては、ゴビーの服を隠したエピソードや、クリシュナの川流しのエピソードをかたどった人形が飾られていました。一番下にはタミルのタンジョール地方の人形が左右に置かれていて、Ushaさんのお気に入りだそうです。
1段目には、ヴィシュヌ神の10変化が飾られている。
2段目には、同じくヴィシュヌのバラジーと呼ばれる神様。
3段目は、アシュタ・ラクシュミーの8変化。
後ろの木彫りの人形が、マラパチと呼ばれる
マハラジャとマハラニのカップルの人形。

4段目には、シバ、パルバティー、その息子のガネーシャや、神様に祈りをささげる人々の姿もある。
5段目には、クリシュナ神話のエピソードが、
盛りこまれたお人形。

左右の立ち姿の人形は、タンジョール地方のお人形。

 このお祭りの期間中、敬虔な人は断食をしたり、女性は針仕事や爪を切るなどの、刃物を使う事が出来ません。
 神様の1人が、針の上での苦行をしたのでタブーとされていますが、いわば、女性が、おおいばりで、家事から解放される時でもあります。ドゥルガー女神は、このページの最初にあったお供え、ココナッツをシンボルとしていますが、ココナッツ、ターメリック、米、キンマの葉、花、マンゴの葉などで偶像化されています。
 客人は、お参りに来たら、歌を歌う事になっています。日本人の私たちは、もちろん「うれしいひな祭り」を唱ってお祝いしました。Ushaさんと、お嬢さんのラーダ(12歳)、息子さんのアシュトシュ(10歳)も、ちょっと恥ずかしそうに神様のことを歌った歌を披露してくれました。お父さんのVenkatさんが、後ろの方で、指揮をしていたのがほほえましかったです。Venkatさん自らタミルのコーヒーを淹れて振舞って下さいました。そして、おじいさんのRajaさんは、クリシュナ神話や、ヴィシュヌの神話の一部を語ってくれました。

Ushaさんの手拍子で、少し恥ずかしそうに歌うラーダとアシュトシュ
上手に歌が歌えるかどうかは、娘にとって、とても大事な事。

 Ushaさんは、ブラーミンの家庭に育った事もあって、貧しい小さな子どもたちにヒンズーの神さまや、ラーマヤーナのお話をパペット(影絵)や操り人形などを使って、宗教教育のお手伝いもされています。そういう事もあって、お人形のコレクションも多くて、立派なひな壇をおもちで、毎年盛大に飾り付けをしているそうです。ひな壇の右には、街を練り歩く神様の偶像を五体倒地の様子や、神様へ詣でる人々の小さなお人形もありました。

         
ひな壇横の、祈り(左)や、村の様子(中央)をお人形で再現している。
(右) 自作のラーマとシータのお人形を手にするUshaさん。
 およばれの最後に、娘さんのラーダさんが、私たちの健康と、夫婦円満、未婚の女性には良縁を祈って、クムクム(赤い粉)を額につけてくれました。Ushaさんはローズウォーターを私たちに振りかけて下さり、ジャスミンの香りで始まったひな祭りは、ローズの香りでお開きです。女性ならではの心配りのお集りでした。このお祝いの引き出物として、ココナッツ、クムクム、ハルワ(ターメリックの粉)、お菓子、パーン用のキンマの葉とパーンのスパイス、そして、小さなガネーシャの置物を下さいました。

        
(左)クムクムとローズウォーター、(中央)サンダルウッドの粉を首に、クムクムを額に。(右)引き出物の数々。

私たちに親切に、タミルのひな祭りをご紹介下さった Vankatramanさん一家。
本当にありがとうございました。
次ぎは、是非とも日本のひな祭りに、お呼び返しをしたいと思っています。


Vankatramanさん一家、タミルのお友達と私たち。
(左)家長のおじいさん。(後ろ中央)お父さんのVenkatさん。



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